「おそれがあると認めるとき」


 こども性暴力防止法(日本版DBS)において、対象業務従事者による児童対象性暴力等が行われる「おそれがあると認めるとき」、の解釈、判断プロセス、および講ずべき防止措置について、ガイドラインに基づき整理します。

                                             (令和8年2月14日)

1. 「おそれがあると認めるとき」の解釈

 対象事業者は、犯罪事実確認の結果や、児童等との面談・相談の結果その他の事情を踏まえ、教員等による児童対象性暴力等が行われるおそれ(以下「おそれ」という。)があると認めるときは、その者を対象業務に従事させないことその他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置(以下「防止措置」という。)を講じなければならない(法第6条並びに第 20 条第1項第4号イ及び第 25 条)。

なぜ「おそれ」の段階から防止措置が必要なのか?

 なぜ「おそれ」の段階から徹底した防止措置が取られる必要があるのか、それは、性暴力が突発的に起きるものではなく、段階を経て深刻化するからです。 性暴力は、SNSでの個別連絡(第1段階)、二人きりの状況作り(第2段階)、過度なスキンシップ(第3段階)という準備行為を経て、最終的な犯行(第4段階)へと繋がっていきます。犯罪行為として顕在化してからでは被害を防げないため、法律は第1〜3段階の「おそれ」がある時点で介入し、芽を摘んでしまう必要があります。

事業者が防止措置を講じる義務が生じる「おそれ」がある状態とは、以下の4つのケースを指します。
• 特定性犯罪事実該当者であった場合
  犯罪事実確認(犯歴確認)の結果、対象期間内に特定の性犯罪歴があることが判明したとき 。
• 被害の申出があった場合
 在籍する児童等や保護者から、特定の従事者による被害の訴えがあったとき(事実確認前の暫定段階を含む) 。
• 調査の結果、性暴力等が合理的に判断される場合
 事実調査を経て、現に児童対象性暴力等が行われたと認められるとき。
• 調査の結果、不適切な行為が合理的に判断される場合
 性暴力そのものには該当しないが、それにつながり得る「不適切な行為」が行われたと認められるとき 。

「おそれ」の内容 考え方
(ア) 特定性犯罪事実該当者であった場合  事業者は、犯罪事実確認の結果その他の事情を踏まえて「おそれ」の有無を判断するところ、特定性犯罪の確認対象期間が、過去のエビデンスから性犯罪の再犯リスクが特定性犯罪の前科を有しない者と比べて高い期間として設定されているものであること等を踏まえると、 特定性犯罪事実該当者であるにもかかわらず「おそれがない」と判断し得るだけの「その他の事情」があることは想定しがたい。このため、通常、事業者は、特定性犯罪事実該当者であったことをもって「おそれ」があると認める。
(イ) 在籍する児童等やその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申出があった場合
 在籍する児童等本人又はその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申告があった場合には、性暴力の被害が引き続き発生している可能性があることから、「おそれ」があると認める(被害があったことを前提とするものではなく、必要な事実確認ができるまでの暫定的な対応)。
(ウ) 調査等の結果、児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合  児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合は、被害児童等への更なる性暴力等や、他の児童等への被害拡大が生じ得ることから、「おそれ」があると認める。
(エ) 調査等の結果、児童対象性暴力等には該当しないが不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合  不適切な行為は、当該行為そのものは性暴力等には該当しないが、継続・発展することにより性暴力等につながり得る行為であるため、不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合は、「おそれ」があると認める。

 

 児童対象性暴力等が行われる「おそれ」に応じた防止措置の内容 

「おそれ」の内容 考え方
(ア) 特定性犯罪事実該当者であった場合 原則、当該教員等を対象業務に従事させない。
(例:新規採用の場合は内定取消し等、現職者(※)の場合は対象業務以外への配置転換等)
(イ) 在籍する児童等やその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申出があった場合
・ 被害拡大防止のため、被害が疑われる児童等と加害が疑われる教員等の接触の回避を行う。
(例:一時的に対象業務から外し、自宅待機や別業務に従事させるなど)
(ウ) 調査等の結果、児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合 ・ 原則、当該教員等を対象業務に従事させない。
(例:懲戒事由に該当する場合には、就業規則に沿った対応を行うとともに、防止措置として不十分である場合には、対象業務以外への配置転換等を講じるなど)
(エ) 調査等の結果、児童対象性暴力等には該当しないが不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合 ・ 重大な不適切な行為である場合には、(ウ)に準じた対応を行う。
・ 初回かつ比較的軽微なものであるような場合は、まずは、当該行為を繰り返さないように指導や研修受講命令を行い、注意深くその後の経過観察を行うなど、段階的な対応を行うことも考えられるが、指導したにも関わらず、同様の行為を繰り返した場合には、(ウ)に準じてより厳格な対応を行うことが考えられる。

 

 1.特定性判然前科があった場合(おそれ①)

                             (こども性暴力防止法に関する事業者向け説明会資料より)

犯罪事実確認による特定性犯罪前科があった場合は「おそれ①」の対応を行う。
 あらかじめ以下の対応をした上で、求職者に特定性犯罪前科の有無を事前に確認した結果、本人から特定性犯罪前科がない旨の申告があったものの、実際には特定性犯罪前科があった場合、内定取消事由、懲戒事由等としての「重要な経歴の詐称」に該当するものと考えられる。

①内定通知書等(*1)に内定取消事由として、就業規則に試用期間中の解約事由や懲戒事由等として、「重要な経歴の詐称」等を定めて周知しておく
②採用募集要項の採用条件に、特定性犯罪前科がないこと等を明示する
③誓約書、履歴書等を通して、特定性犯罪前科の有無等を書面等で明示的に確認する

*1 判例上、誓約書等に記載の内定取消事由に基づき内定取消しを行うことは可能であるとされているため、内定通知書や誓約書に加えて、就業規則にも内定取消事由を定めることまでは要しない。

 

上記対応を行っている場合


施行時・認定時現職者 犯罪事実確認の結果、特定性犯罪前科があることが判明したときは、
 重要な経歴を詐称したものとして懲戒事由に該当する。➡ 懲戒解雇
採用内定者・試用期間中 犯罪事実確認の結果、特定性犯罪前科があることが判明したときは、
 重要な経歴を詐称したものとして、内定取消事由・試用期間中の解約事由等に該当する。➡ 内定取消し・試用期間中の解約

上記対応を行っていない場合

○施行時・認定時現職者
 犯罪事実確認の結果、特定性犯罪前科があることが判明したとしても、重要な経歴を詐称したものとはいえず、懲戒事由に該当しない可能性がある。
○採用内定者・試用期間中
 犯罪事実確認の結果、特定性犯罪前科があることが判明したとしても、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実とはいえず、内定取消しを行うことはできない可能性がある。


 対象事業者が、防止措置として雇用管理上の措置を講ずる場合には、労働契約法等の労働関係法令等を遵守した対応が求められます。
 事前準備として
•「就業規則の懲戒事由に「重要な経歴の詐称」を規定
• 採用募集要項の採用条件に、特定性犯罪前科がないこと等を明示
• 誓約書等を通して、特定性犯罪前科の有無等を書面等で確認 等を行っていないと、普通解雇の選択等、より難易度の高い対応が求められることになります。


 2.児童対象性暴力等・不適切な行為の発生の場合(おそれ②・③・④)

事前に就業規則において、
①こども性暴力防止法に基づく防止措置の対象となる児童対象性暴力等やそれにつながる不適切な行為の範囲
②教育、保育等を提供する場においてこれらの行為を行うことは本法の趣旨や規定に反する行為であり厳格な懲戒処分の対象になり得ることを定め、従事者に周知・伝達しておく
*「不適切な行為」の内容は、各施設・事業の性質や対象児童等の年齢・発達の状況等によって異なることが想定される。横断指針の例示も参考に、従事者が過度に委縮することがないよう留意しつつ、各事業者の実態に応じて明確化する

 

○判例上、使用者が労働者に対し、懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則において、懲戒事由及び懲戒種別を定め、その就業規則を労働者に周知する必要があるとされている。また、懲戒処分は、就業規則上の懲戒事由に該当するとともに、懲戒処分の相当性がなければ無効となる。

○防止措置のうち「おそれ③・➃」との関係では、就業規則に児童対象性暴力等や不適切な行為の範囲とそれらを行ってはならない旨を定め、その違反が懲戒事由に該当する形になっている中、実際に児童対象性暴力等や不適切な行為が発生した場合は、その具体的な事実関係(重大性・悪質性等)に応じて、懲戒処分を実施することになるが、懲戒解雇や諭旨退職以外の懲戒処分を実施する場合は、それのみではこどもとの接触を回避することには直ちにはつながらないので、配置転換等を行うことも必要である。


児童等やその保護者から被害申出があった場合は「おそれ②」の対応を行う。
 対象業務従事者が「児童対象性暴力等」又は不適切な行為に該当する行為を行った場合、その事案に応じて「おそれ③➃」の対応を行う。

「おそれ」のパターン 防止措置 留意点
「おそれ②」
➡ 被害拡大防止のため、被害が疑われる
児童等と加害が疑われる教員等の接触の
回避を行う(例:一時的に対象業務から外し、
自宅待機や別業務に従事させるなど)
自宅待機命令(暫定的措置) • その後の事実調査に基づき「おそれ③・➃」に移行
「おそれ③」
「おそれ➃」のうち重大な不適切な行為や
指導したにも関わらず同様の行為を繰り
返した場合
➡ 原則、当該教員等を対象業務に従事
させない(例:懲戒事由に該当する場合
には、就業規則に沿った対応を行うとともに、
防止措置として不十分である場合には、
対象業務以外への配置転換等を講じるなど)
㋐ 懲戒解雇、諭旨退職、普通解雇
㋑ ㋐以外の懲戒処分
㋒ 配置転換等
• 懲戒解雇や諭旨退職以外の懲戒処分を実施する場合は、
それのみではこどもとの接触を回避することには直ちに
はつながらないので、配置転換等(㋒)も必要。
「おそれ④」
「おそれ➃」のうち初回かつ比較的軽微なもの
➡ 当該行為を繰り返さないように指導や研修
受講命令を行い、注意深くその後の経過観察を
行うなど、段階的な対応を行う
注意指導や研修受講命令  

*配置転換の場合は、ジョブ型雇用との兼ね合い、また自宅待機については、待機時の賃金の支払いの有無等が問題となってきます。

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