就業規則の不利益変更について
労働契約法10条では、就業規則による労働条件の不利益変更について、変更の合理性に加え、周知が効力発生のための手続き要件として定められています。
1. 変更内容の検討と合理性の確認
まずは、その変更が法律(労働契約法第10条)に照らして「合理的」であるかを判断します。
<不利益変更について、判例が示す合理性判断の判断要素>
労働者の受ける不利益の程度
労働条件の変更の必要性の内容・程度
変更後の就業規則の内容の相当性
労働組合等との交渉の経緯
代償措置・経過措置の有無
その他、同種事項に関する国内や同業他社の一般的状況等
こども性暴力防止法(日本版DBS)の導入に伴う就業規則の変更は、「こどもを性暴力から守る」という法の重大な目的を果たすためのものであり、適切な手続を経ることで、労働契約法上の「客観的に合理的な理由」があると認められやすくなります。
ガイドラインに基づき、就業規則変更の合理性を支える要因とその留意点を解説します。
1. 法的義務の履行という正当な目的
この法律は、学校設置者や認定事業者に対し、従事者による児童対象性暴力を防止する「責務」を課しています。
• 安全確保措置の義務
事業者は、犯罪事実確認(犯歴確認)を行い、特定性犯罪事実がある者やそのおそれがある者を「こどもに接する業務」に従事させない措置を講じる義務があります。
• 解雇の正当性補強
法に基づく「こどもを守る義務」を果たすための解雇や配置転換は、司法の場においてもその正当性を補強する重要な要素となります 。
2. 配置転換命令の合理性
特定性犯罪事実が判明した従事者を、こどもと接しない業務へ異動させることは、法が定める「防止措置」として必須です 。
• 業務上の必要性
このような配置転換は、一般に**「業務上の必要性」が認められる**ものと考えられます。
• 職種限定解除
就業規則を改訂して「法に基づく防止措置として配置転換を行う可能性があること」を明文化しておくことは、将来的な人事権行使の客観的な根拠となります
。
3. 懲戒・解雇規定の追加とその妥当性
新たな懲戒事由(経歴詐称や性暴力行為など)を追加することは従事者に義務を課すものですが、以下の点から合理性が認められます。
• 重要な経歴の詐称
採用選考時に犯歴を秘匿して雇用された場合、それを懲戒事由として規定しておくことは、採否の決定に重大な影響を及ぼす事項の詐称として、懲戒解雇の有効性を支える根拠になります
。
• 企業秩序の維持
教育・保育の現場で性暴力を防ぐことは、組織の信頼性と運営を維持するために不可欠であり、これに違反する行為を懲戒対象とすることは合理的です。
4. 合理性・妥当性を高めるための留意点(社会的相当性)
変更内容が「合理的」と認められるためには、一方的な押し付けではなく、「相当性」(バランス)が求められます。
• 段階的な対応の規定
初回かつ比較的軽微な「不適切な行為」については、直ちに解雇するのではなく、まずは指導や研修受講を命じるなど、段階的な対応をルール化しておくことが、処分の妥当性を認められるポイントになります。
• 現場との対話
「不適切な行為」の範囲を定める際は、現場の従事者とコミュニケーションを図り、実態に即して決定することが推奨されています。
• 周知の徹底
就業規則の改訂内容は、従事者がいつでも閲覧できる状態にし、周知されて初めて法的拘束力を持ちます 。
このように、「法令遵守」と「児童の安全確保」という高い公益性があるため、適切な内容での就業規則変更は、労働法制上も高い合理性を持つと位置付けられています
。
2. 従業員・労働組合への説明と協議
いきなり周知するのではなく、事前に丁寧な説明を行うことが実務上もっとも重要です。
説明会の実施: なぜ変更が必要なのか、背景と理由を誠実に伝えます。
個別面談: 特に大きな不利益を被る従業員には、個別のフォローが推奨されます。
労働組合との交渉: 組合がある場合は、労働組合との合意(労働協約の締結)を目指します。
3. 労働者代表からの意見聴取
就業規則を変更する場合、労働基準法に基づき、従業員の代表から意見を聞く必要があります。過半数代表者の選出: 民主的な方法(投票や挙手など)で選ばれた代表者である必要があります。
意見書の作成
代表者に変更内容を確認してもらい、「意見書」に署名・捺印をもらいます。(※反対意見であっても、意見を聞いたという事実があれば届出自体は可能です)
4. 就業規則の変更届を提出
管轄の労働基準監督署に以下の書類を提出します。
就業規則変更届
変更後の就業規則(新旧対照表があるとスムーズです)
従業員代表の意見書
5. 従業員への周知(必須)
変更した就業規則は、従業員がいつでも見られる状態にしなければ効力が発生しません。
方法: 社内サーバーへのアップロード、書面の掲示、各部署への備え付けなど。
注意点: 「机の引き出しにしまっている」状態は周知とは認められません。
