制度(日本版DBS)の導入前に、採用に関して事業者が準備しておくべき事項は、法的トラブルを回避し、こどもの安全を確保するために多岐にわたります。ガイドラインに基づき、具体的な備えを以下の5つのポイントにまとめました。
令和8年2月3日現在、放課後等デイサービスの求人で「特定性犯罪前科がないこと」を採用条件として明記している求人はほとんど見受けられません。採用後のトラブルを少しでも減らせるよう、これから新規採用される方については、募集の段階から、法施行日(令和8年12月25日)以降、原則3年以内に、犯歴確認(戸籍累投の提出義務)の対象になる旨告知しておく法が無難です。
1. 対象となる職種の特定
まず、自施設において誰が犯罪事実確認(犯歴確認)の対象となるかを明確にする必要があります。
• 3要件による判断
業務の実態が「支配性・継続性・閉鎖性」のすべてを満たす従事者を特定します。
• 職種のリストアップ
事務職員やバス運転手、ボランティアなど、職種の一部が対象になり得る者についても、実態に即してあらかじめ範囲を定めておきます。
2. 募集要項と採用条件の整備
採用後のミスマッチやトラブルを防ぐため、募集段階からの備えが必要です。
• 採用条件の明示
募集要項に「特定性犯罪前科がないこと」を採用条件として明記します。
• 事前伝達
採用内定後等に犯歴確認の対象となること、および戸籍書類等の提出が必要であることを、求職者に対して書面等であらかじめ伝達する準備を整えます
。
3. 選考プロセスにおける確認体制の構築
内定を出す前の段階で、可能な限りの確認を行う体制を整えます。
• 誓約書と履歴書の活用
採用選考時に、特定性犯罪前科がない旨の誓約書の提出を求めたり、履歴書の賞罰欄で明示的に確認したりするフローを導入します。
• 既存データベースの活用
教育職員や保育士を採用する場合は、内定を出す前に、それぞれの既存データベース(免許失効・登録取消情報)を検索する手順を組み込みます 。
4. 就業規則および内定通知書の改訂
特定性犯罪事実が判明した際に、内定取消しや配置転換を有効に行えるよう、法的根拠を整備します。
• 内定取消事由の規定
内定通知書や就業規則に、内定取消事由として「重要な経歴の詐称(特定性犯罪事実の秘匿など)」を明記します。
• 懲戒・解雇事由の追加
就業規則を改訂し、「性暴力行為」や「重大な不適切な行為」に加え、「犯歴確認の手続への協力拒否」も懲戒や業務命令違反の対象となり得ることを定めておきます。
• 配置転換の根拠
犯歴が判明した場合に「こどもと接しない業務」へ配置転換できるよう、職種限定解除や人事異動の根拠規定を確認・整備します 。
犯歴が判明した場合の「配置転換のための根拠規定の整備」について
防止措置として雇用する従事者の配置転換を行う場合、あらかじめ雇用契約上の根拠(就業規則等の規定)を定めておく必要があります 。裁判例では、就業規則に業務上の都合により配置転換を命ずることができる旨の定めがあり、職種を限定する合意がない場合には、事業者は労働者の同意なしに配置転換を命じることができるとされています。
事前通知の必要性
従事者に対し、特定性犯罪事実該当者であることが判明した場合には「対象業務に従事させることができない(配置転換等が行われる)」ことをあらかじめ書面等で伝達しておくこと。
就業規則の規定や、個別の雇用契約書へ明記することによって、人事権行使の客観的な根拠を整えておく必要があります。
*但し、多くの施設や学習塾等では配置転換が可能な職種が無いことがほとんどです。その際には最終的に「普通解雇」を検討することになります。
なお、配置転換が不可能であることを伝え、本人の納得を得た上で退職という選択肢を提示することも可能です。ガイドラインにおいても、普通解雇は労働法上のハードルが高いため、解雇を回避するための、本人と話し合うプロセスが重要視されています。
5. 「いとま特例」への対応準備
急な欠員で確認完了前に従事させる場合に備え、体制を整えます。
• 安全確保措置の策定
確認待ちの従事者を「犯歴あり」とみなして、原則として児童等と一対一にさせないためのシフト管理や巡回体制をあらかじめ検討しておきます。
• 書面説明の準備
特例対象者に対し、遵守すべき制限事項(一対一の禁止等)を書面で説明するための様式を用意します。
1.試用期間における解約権の行使
試用期間中の雇用契約は、判例上、「解約権を留保した雇用契約」客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されることが条件となります
。
2. 経歴詐称がある場合の対応
採用選考過程において特定性犯罪前科の有無を明示的に確認していたにもかかわらず、虚偽の申告や黙秘があり、試用期間中の犯罪事実確認で犯歴が明らかになった場合は、「重要な経歴の詐称」として解雇事由に該当すると考えられます 。
3. 事業者が備えておくべき事項
試用期間中の解雇(本採用拒否)を有効に行い、トラブルを防止するためには、以下の対応をあらかじめとっておくことが適当であるとされています 。
• 就業規則の整備: 試用期間中の解約事由または懲戒事由として「重要な経歴の詐称」を明文化し、周知しておくこと 。
• 採用条件の明示: 募集要項に「特定性犯罪前科がないこと」を条件として明記すること 。
• 明示的な確認: 採用選考時に、履歴書や誓約書等を通じて特定性犯罪前科の有無を回答させるフローを設けること。
4. 配置転換の検討
解雇(本採用拒否)を行わず、「こどもと接しない業務」への配置転換を行って雇用を継続することも検討可能です 。ただし、採用時に職種や勤務地が限定されている場合は、別の職種への変更には従事者本人の同意が必要となります。
5. 有期労働契約の場合の留意点
契約社員などの有期労働契約において試用期間を設けている場合、解約権の行使には、労働契約法第17条第1項に基づき、雇用期間満了を待たずに直ちに終了させざるを得ないような「やむを得ない事由」が必要であると判断される傾向にあります
。
6. 暫定的な措置
試用期間中に犯歴が判明し、解雇や配置転換の検討を行っている間であっても、当該従事者をこどもに接する業務に従事させ続けることはできません。この期間中は、自宅待機命令などにより、こどもとの接触を遮断する暫定的な措置を講じる必要があります。
*自宅待機と出勤停止はことなります。自宅待機は業務命令、出勤停止処分は懲戒処分となり、賃金の支払い義務等扱いが異なってきます。自宅待機についてはトラブルも多く、就業規則にその規定を設けもう区敵を明らかにしておく必要があります。
以上、これらの備えを制度施行や認定取得の前に行うことで、採用選考における透明性が高まり、特定性犯罪事実を持つ者の流入を未然に防ぐとともに、万一の際の法的リスクを最小限に抑えることができます
。