
こども性暴力防止法(日本版DBS)における「いとま特例」とは、本来、業務従事前に完了すべき犯罪事実確認(犯歴確認)について、急な欠員等の「やむを得ない事情」がある場合に限り、確認完了前であっても先行して業務に従事させることを認める例外規定です。
ガイドラインに基づき、この特例の適用条件、期限、および期間中に講ずべき措置について詳述します。
1. 適用される「やむを得ない事情」
いとま特例は、直ちに業務を行わせなければ事業の運営に著しい支障が生じる場合に適用され、具体的には以下のケースが該当します。
•急な欠員・増員: 予見できない欠員や、学級数増加等による緊急の増員。
•採用・異動の遅れ: 予算成立時期や人事交流等の都合により、内示が従事直前となった場合。
•組織変更: 合併、分割、事業譲渡などによる事業承継に伴い、短期間で従事させる必要がある場合。
•交付の遅延: 十分な余裕を持って申請したにもかかわらず、従事開始までに犯罪事実確認書が交付されない場合。
2. 犯罪事実確認の期限
いとま特例が適用される場合、以下の期限内に確認を完了させる必要があります。
• 原則: 従事開始日から3か月以内。
• 例外(6か月以内)
大規模災害が発生した場合や、十分な余裕を持って申請したのに3か月以内に交付されなかった場合などは、最大で6か月以内まで延長されます。
3. 特例期間中に講ずべき「必要な措置」
犯罪事実確認を行うまでの間、事業者は当該従事者を「特定性犯罪事実該当者(犯歴あり)」とみなして、以下の安全確保措置を講じる義務があります 。
• 一対一の禁止
原則として、児童等と当該従事者を一対一にさせてはいけません。これには、複数人の児童がいても、状況を正しく認識・説明できない未就学児や障害児のみである場合も含まれます。
• 予防研修の受講: 従事者に対し、いとま特例の趣旨や児童対象性暴力防止に関する研修を受講させます。
• 管理者の巡回: 管理職による定期的な巡回や声掛けを実施します。
4. やむを得ず一対一になる場合の例外
以下のケースでは、例外的に一対一の対応が認められますが、管理者の事前了解や事後報告、視認性の高い場所での実施などが条件となります。
• 業務の性質上必要な場合: スクールカウンセラー等による専門的な面談など。
• 緊急・突発的な事態: 災害時のケアや、代替要員がいない中での突発的な排せつ介助・着替え補助など。
5. 事業者の事務・保存義務
いとま特例を適用する際、事業者の責任者は以下の対応を行わなければなりません。
• 書面説明: 対象従事者に対し、必要な措置(一対一の禁止等)の内容を書面で説明します。
• 書類の保存
「やむを得ない事情」に該当することを証する書類を保存しなければなりません。これらは立入検査の際に提示を求められることがあります。また、事業承継の場合、承継元で確認済みかつ5年以内の従事者については、研修を受講させることで一対一の対応が可能となる緩和措置があります
• 帳簿の保存期間
「やむを得ない事情」を証する書類(前任者の退職届、システム申請の記録、合併契約書の写しなど)の保存期間は、法的に備え付けが義務付けられている「帳簿」の保存期間に準じます。
*帳簿は、作成した日の翌日から起算して5年を経過する日の属する年度の末日まで保存しなければなりません
いとま特例を適用して、犯罪事実確認が完了する前に対象業務に従事させる場合、事業者は当該従事者に対して講ずべき「必要な措置」の内容などについて書面による説明を行うことが義務付けられています。
書類を保存すべき理由
事業者は、いとま特例を適用して犯罪事実確認前に従事させた者がある場合、その正当性を証明する書類を適切に保存・管理する義務があります。これが必要な主な理由は以下の2点です。
• 報告徴収・立入検査への対
国(こども家庭庁)による報告徴収や立入検査の際に、提示を求められる可能性があるためです 。
• 定期報告への活用
年に1回の定期報告において、「いとま特例」の適用有無やその具体的な事由(やむを得ない事情の内容)を報告する必要があり、その根拠資料となります。
事由を証する書類等
いとま特例を適用して犯罪事実確認前に従事させる場合、事業者はその正当性を証明する書類を保存し、報告徴収や立入検査の際に提示できる状態にしておく義務があります。
ガイドラインに例示されている具体的な書類は以下の通りです。
• 欠員を証明する書類: 前任者の「退職届の写し」など、急な欠員が発生した事実が客観的に分かるもの 。
• 申請遅延を証明する書類: 十分な余裕を持って申請したことを示す「申請受付の記録」や、システムのトラブル通知など 。
• 人事・契約を証明する書類: 予算成立や内示時期が直前であったことを示す公文書、労働者派遣契約の締結遅延を証明する書類など 。
• 事業承継を証明する書類: 合併契約書や事業譲渡に関する書類の写し 。
留意点: 単に「人手不足である」というだけでは認められず、「予見可能であったか」「事業者の過失ではないか」が厳格に問われます 。例えば、定年退職による欠員のように、あらかじめ分かっていた事由については「やむを得ない事情」には該当しません 。
1. 特例の適用対象であることの明示
当該従事者がいとま特例の対象となること、および犯罪事実確認が行われるまでの間は法律上「特定性犯罪事実該当者(前科あり)」とみなされることを伝えます。
2. 講ずべき「必要な措置」の具体的内容
犯罪事実確認を待つ間、性暴力を防止するために実施する以下のルールを具体的に説明しなければなりません。
• 児童等との一対一の禁止
原則として、児童等と当該従事者を一対一にさせないこと。これには、複数人の児童がいても、未就学児や障害児など状況を正しく認識・説明できない児童のみである場合も含まれます。
• 研修の受講: いとま特例の趣旨や、児童対象性暴力の防止に関する研修を受講すること。
• 管理者の巡回: 管理職等による定期的な巡回や声掛けが実施されること。
3. やむを得ず一対一になる場合のルール
業務の性質上(カウンセリング等)や緊急時(災害、代替要員不在時の突発的な介助等)に例外的に一対一になることが認められるケースと、その際の以下の手順を説明します。
・事前に管理職などに対し、時間、場所、対象となるこどもを報告
・一対一になる必要性を報告
・終了後にも完了報告を行う 必要があります。
さらに、極力外部から視認性の高い場所やリモートでの実施について検討するといった措置を講じる必要があります。
4. 服務規律と違反時の対応
• これらの「必要な措置」を遵守すること。
• これに違反した場合には、就業規則等に基づき処分の対象(懲戒処分等)になり得ること。
事業者は、これらの内容を適切に伝達し、従事者の理解を得るよう努める必要があります。また、特例を適用する「やむを得ない事情」を証する書類とともに、この説明に関する記録を保存しておくことが求められます
スポットワークや派遣については、この「いとま特例」が適用できない場合は、原則、子供と接する仕事につかせることができません。現実問題として、スポットワークや派遣等、単発での雇用はできないということです(令和8年3月11日 確認)。
「いとま特例」を適用して業務を開始させた後、特定性犯罪事実が確認された場合
いとま特例(犯罪事実確認が終わる前に業務に従事させる例外措置)を適用して業務を開始させた後、特定性犯罪事実が確認された場合、「犯歴がある」という事実のみをもって直ちに普通解雇を行うことは、労働法制上、認められない可能性があります。
解雇が有効と認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる必要がありますが、具体的な考え方は以下の通りです。
1. 配置転換等の優先(解雇回避努力)
特定性犯罪事実が確認された場合、事業者は「防止措置」として、原則として当該従事者をこどもに接する業務に従事させない義務を負います。しかし、解雇の有効性を判断する上では、「解雇を避けるための努力をしたか」が重要視されます。
まずは、対象業務以外の職(こどもと接しない事務職など)への配置転換や業務範囲の限定が可能かどうかを、十分に検討する必要があります。
配置転換等の措置を検討せずに直ちに解雇した場合は、解雇回避努力を尽くしたとは言えず、解雇が無効となるリスクがあります。
2. 普通解雇が認められ得る場合
配置転換等の措置を十分に検討した結果、事業所の規模や業務内容から、**「解雇以外の選択肢がどうしても取り得ない」**というやむを得ない事情がある場合に限り、普通解雇が認められ得ます。
この場合、本法に基づく「児童対象性暴力等の防止」という重大な立法の趣旨に沿った対応であることが、有効性の判断において重要な要素として考慮されます。
ただし、最終的な有効性は司法の場において、個別の事案ごとに具体的な事実関係に基づいて判断されます。
3. 「重要な経歴の詐称」がある場合(懲戒解雇等)
もし採用選考の過程で、事業者側が特定性犯罪前科の有無を明示的に確認(誓約書の提出等)していたにもかかわらず、本人が虚偽の申告や黙秘をしていた場合には、「重要な経歴の詐称*に該当します。
この場合は、就業規則の懲戒規定に基づき、普通解雇よりも重い懲戒解雇や諭旨退職の対象となることが考えられます。
なお、試用期間中であれば、通常の解雇よりも広い範囲での解雇の自由が認められるため、経歴詐称を理由とした本採用拒否(留保解約権の行使)も検討材料となります。
結論
いとま特例で就労開始後に犯歴が判明した場合でも、いきなり普通解雇することは避け、まずは「こどもと接しない別業務への配置換え」ができないか、組織内で最大限検討することが求められます。解雇はあくまで「他に代替手段がない場合の最終手段」として位置づけられています
「こども性暴力防止法に関するQ&A」より
【6-10】 いとま特例について、事業者が「やむを得ない事情」であると判断すれば、ガイドラインで示されているもの以外の事情でも、いとま特例が適用できますか。
(答) いとま特例が適用され得る「やむを得ない事情」はガイドラインでお示ししている事情のみであり、これに該当しない場合には、原則どおり対象業務に従事する前に犯罪事実確認を終えることが必要です。
【6-11】 臨時的任用教職員については必ず「いとま特例」が適用されますか。
(答) 対象業務従事者については、臨時的任用職員であるか否かにかかわらず、原則、従事開始前までに犯罪事実確認を行うことが必要です。臨時的任用職員であれば必ずいとま特例が適用されるものではなく、ガイドラインでお示ししている、予見することができない欠員等の事情に該当する場合に、いとま特例が適用されることとなります。
【6-12】 ガイドラインで示されている、いとま特例の「やむを得ない事情」のうち「従事開始までに十分な余裕をもって犯罪事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、従事開始までに交付が受けられない場合」の「十分な余裕をもって」というのは、具体的にどれくらいの期間ですか。
(答) 交付申請から従事開始までの間に、犯罪事実確認書交付の標準処理期間の最長期間(日本国籍の従事者に係る申請の場合は1か月、外国籍の従事者に係る申請の場合は2か月)を、確保している場合が該当します。
【6-13】 ガイドラインで示されている、いとま特例の「やむを得ない事情」のうち「従事開始までに十分な余裕をもって犯罪時事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、従事開始までに交付が受けられない場合」について、従事開始までに交付が受けられないことについてこども家庭庁からお知らせ等はありますか。また、いとま特例を適用するために事業者側で何らかの手続が必要ですか。
(答) いとま特例の「従事開始までに十分な余裕をもって犯罪時事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、従事開始までに交付が受けられない場合」に該当することが見込まれる場合には、交付申請時に登録された「従事開始予定日」よりも前に、こども家庭庁から事業者に対していとま特例が適用される旨をお知らせします。
事業者において必要な手続は特段ありませんが、必要な措置(原則こどもと一対一にさせない等)を講じた上で従事させるか、犯罪事実確認が終わるまでは対象業務以外の業務に従事させるようにしてください。
【6-14】 ガイドラインで示されている、いとま特例の「やむを得ない事情」のうち「国等における予算編成上の制約等によって内示等の異動の決定が従事開始の直前となるとき」について、現状、毎年の定期的な異動について異動の1週間前に内示をしていますが、これは「やむを得ない事情」に該当しますか。
(答) ガイドラインでお示ししているとおり、「内示の時期を早めることに特段の支障はないにもかかわらず、慣行として内示は異動直前に行ってきたという理由で、従事開始に内示した場合」は「やむを得ない事情」に該当しません。したがって、現行の内示時期では従事開始までに犯罪事実確認を行うことが難しい場合は、まずは採用スケジュールの見直しをご検討ください。
【6-17】 スポットワークなど従事期間が短い従事者の場合、犯罪事実確認を終える頃には従事期間が終了していることも想定されますが、どのように対応することが考えられますか。
答) 対象となる職種については従事期間による例外は設けられていないため、スポットワーク等の従事期間が短い者についても対象となります。この場合も、原則、対象業務に従事させる前に犯罪事実確認を行うことが必要であり、急な欠員等のやむをえない事情がある場合に限り、犯罪事実確認を終える前に従事させることが認められます。
また、事業者と従事者の間で、一定の期間内(最長6か月)に当該事業者において再度対象業務に従事する可能性がある旨の書面(意向確認書面)を取り交わしている場合は、いったん従事を終了した後も当該期間内は犯罪事実確認記録等を保有でき、再度その者が対象業務に従事することとなった場合に、犯罪事実確認を完了した者として従事させることが可能(改めて犯罪事実確認をすることは不要)となるため、従事者に説明の上、上述の対応をとることが考えられます。